No.793 苦難

先日、ある会社から相談を受けました。仮にA社としておきましょう。

一応利益は出ているものの、売上の8割以上は他社製品の帳合取引によるものであり、自社製品の売上は2割を切っていて部門損益は真っ赤っか。帳合を外されてしまったら、途端に赤字に転落してしまうのだとか。

「帳合」とは、本来は「帳簿合わせ」という会計上の作業を指し、帳簿に記録されている金額等が現実の数字と一致しているかを確認し、帳簿の精度を高めることを意味しますが、商取引上では、たとえばメーカーと小売業者の間に特定の卸売業者を挟み、その会社を通じて商品の仕入や代金決済などを行う取引形態を指します。

BtoBの世界でも、取引実績のない会社から何かを仕入れようとしたとき、物は直接入れるものの、代金決済等は新たな口座を開かずに、既に口座がある会社を挟むことによって取引を開始するケースがあります。

A社の場合もこれに近いのですが、その理由が少し異なっていました。

A社の先代が納品先B社の会長と仲がよく、A社の経営が苦しくなった時、まったく業種の異なるC社との取引の間にA社を入れて救済していただいた。それが今でも続いていていて、その上、C社製品の取引は増え続け、自社製品の販売は減るばかり。気づいたら4倍以上の開きが出てしまったと言います。

しかし、B社会長も高齢となり、いつ引退されるかわからない。そうなれば、B社にとって会長とのご縁以外に存在価値のないA社が切られるのは火を見るより明らかなこと。

そのような現状に「夜も眠れない」という相談者のDさんは娘婿。先代が亡くなり、義母も妻も会社に関わっておらず、懇願されて代表の座に就いたDさん。はじめは憧れの社長になれたことを喜んでいたそうです。

しかし実態は張りぼての利益。さらに短期貸付金は回収不能な先代個人の借金。コロナ融資等で当面の資金には問題ないものの、実態は債務超過。夜も眠れないのもよくわかりました。

そこでまず資金繰りを確認したところ、B社の帳合が外れても、何とか1年半は持ちそうなことがわかりました。実態債務超過であることは金融機関もわかっているとのことですし、金融機関名を聴いてもそれほど無理を言う先ではないことを確認した上で、次のようにお伝えしました。

「確かに会社はよい状況とは言えないが、1年半の猶予はある。中身的には先代に恨み節のひとつも言いたいことはよくわかるが、まずは憧れの社長になれたことを喜ぼう。」

「会社をよくするのも悪くするのも社長次第。あなたの代でよくすればいい。そもそも自分に解決できない課題は目の前に現れない。現状はあなたが改善できるからある。ちょっとマイナスからスタートするだけで、こんなことはよくある話。逆に1年半も猶予をもらっていると前向きにとらえよう」

そうお伝えした上で帳簿類の精査をし、工場を見て回ったところ、いくつかの取組事項が見えてきました。

  • 価格交渉:取引先別に限界利益率を計算したところ、採算が合っていない先があった。
  • 生産性向上:工程、作業方法に無駄が多い。工夫すれば3割くらいの生産性向上ができそう。具体的にいくつかの改善案を提示。
  • 営業活動:A社にしかできない特殊加工技術がある模様。これを切り口に営業すれば、多少なりとも受注の見込みが立ちそう。必要とする業種の企業リストを作成し、早速営業活動を開始するよう示唆。

いずれにしろ、B社への売上の後ろに隠れていた自社製品は、掘れば利益がザクザク出てくる宝の山に思えました。そのことを一つひとつ説明していくと、Dさんの顔は少しずつ和らいできたようです。

「やることが多くて大変だけど、それだけ成果も大きいということ。A社の救世主として、楽しんでやっていってちょうだいな」とお伝えして、面談を終了しました。

先代の残した負の財産は大きいものの、それもまたDさんの宿命。楽しんでこの苦難を乗り越えていっていただければと思います。

皆さんもこれを機に、スポットライトの当たっていない課題を掘り出してみてはいかがでしょうか。