No.690 変革

先日、非常に興味深いお話をお聴きしましたので、皆さんにもお裾分けしたいと思います。

「バブル崩壊後、従業員の4割をリストラしなければならなかった」というM社長。何とかリストラ対象者全員の再就職先を手当てし、「社長としての最低限の責任は果たせた」ものの、「もう二度とこんな思いはしたくない」と覚悟を決められたとのこと。

なぜそのような事態に陥ってしまったのか。それは、当時の売上の7割を占めていたお客様からの受注が止まってしまったことでした。お客様自体に仕事がなく、何ともすることができない。

「自社の成長のコントロールを、人任せにしてはいけない」

そう考えたM社長は、2つのことを決められました。一つは、「1社のお客様の売上構成比を10%までとする」こと、もう一つが、「毎月の売上の10%を、常に新規顧客ないしは新商品で賄うこと」でした。

とくに後者については徹底されていて、計画比120%の受注をしてきても、それが既存顧客-既存商品による売上であったら、褒めるどころか、厳しく叱責するのだそうです。

「君がやったことは、会社にリスクをもたらし、かつ、成長の機会を奪ったことである。本来は100の内、既存商品は90まで、残りの10は新商品の提案によるものでないといけない。その大切な時間を、リスクを増やす時間に使ったのだ。二度としないように。」

このような話をし始めた頃は、なかなか受け入れられなかったそうです。当たり前ですよね。

「今では当たり前になった」という毎月新規10%をどのように実現されたのか。それは「とにかく顔を出し、お客様の悩みや課題を聴き出して、それを解決・解消する手立てをとことん考えて実現すること」なのだそうです。

みなさんは、アメリカの心理学者ロバート・ザイオンスの『単純接触効果』という言葉を知っていますか。これは「元々興味がなかった物事や人物に対して、複数回接触を繰り返すことで、興味を持つようになる心理的現象」です。要するに、「会うのが一番」ということです。

分かり切っていることではありますが、これがなかなかできない。「時間がない」「会うネタがない」などなど、できない理由は山ほどあります。しかしM社では、長い時間をかけてこれを当たり前にされた。凄いことだと思います。

お客様からすれば、悩みや課題を解決してくれるのですから、いくら払っても惜しくない。今では自己資本比率も50%を超え、「1年間売上がなくてもびくともしない」会社になっているとのこと。

今回お聴きしたお話には、経営におけるヒントがあると思います。ぜひ自社に当てはめて、何ができるかを考えていただきたいと思います。