No.757 理想
先日、ある後継経営者から相談を受けました。5年前にお父様から社長の座を譲られ、3年間二人三脚で経営されていたものの、2年前に先代が亡くなられ、それ以来、実質的に一人で経営に携わっておられます。
そんな彼の相談とは、「社員が言うことを聴いてくれない」というものでした。「こうした方がいいんじゃないか」と伝えても、ああだこうだと理由を並べて受け入れられず、その上、意思決定のまずさをいちいち指摘してくるのだとか。「もう放り出してやろうかと思うことさえある」ほどとのこと。
私は、少々悪戯心を出して、「子は親の言うことは聞かないが、親の言う通りになる、と言うのは本当だね。あなたがお父さんにやってきたことと同じことをされているだけ」と揶揄してみました。
「あっ」と漏れた声を尻目に、「でもあなたは幸せ者。社員さんが社長に面と向かって意見を言ってくれることはなかなかないこと。イエスマンとなってただただ従うか、面従腹背で何も反論せずに言うことをきかないというケースも多い。意見を言ってくれるだけでもありがたいこと」と伝えました。
「彼らがしっかりとした意見を持ち、はっきりと口に出すことができるのは、仕事を、そして会社を好きでいてくれるから。その気持ちを大切にすることが何より大切」とした上で、「どうしたらその気持ちを活かせると思う?」と質問を投げ掛けました。
いろいろな意見が出る中で、「会社の理想を語ることでしょうか?」と答えたくれたことに喜びを感じつつ、「まずは会社のいいところを、みんなで話し合って100個挙げて頂戴。その上で、そのいいところを活かした会社の10年後、20年後の理想を語り合う時間を設けてみて。社員さんに対する思いが変わっていくよ」とお伝えしました。
しばらくは上を見詰めて迷いの表情を見せていましたが、最終的には「一度やってみます」と覚悟を決めて帰って行かれました。
時に、面と向き合えば言い争いになることもあります。しかし、同じ星を見上げれば、その美しさに共感が生まれるものです。
その星は理想です。共通の希望となるものです。大いに語り合ってもらいたいと思います。
皆さんにも、心が繋がっていない社員さんがいらっしゃるかもしれません。そんな方とこそ、共通の希望の星を見出すための時間を設けていただきたいと思います。